「瘋癲老人日記」谷崎潤一郎
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これは面白い!この小説は、息子の嫁に性欲を覚える脚フェチな老人の性倒錯を軸として、老いることや病気や老人の日常を赤裸々に記録した日記形式の物語ですが、設定と文体が絶妙です。
特異で未来言語に思えてくる面白い文体
漢字交じりのカタカナという特殊な文体なので、慣れるまでに読みにくさはありますが、特異な感じが老人のおぼつかなさだったり特殊性癖の目線と言う非日常感を醸し出しています。
日記形式というのはすごく日常的で親しみやすいのですが、固有名詞などから昔出来事であると感じる一方で、考えている事ややっている事の根本は、今と変わらないところに親近感を覚えます。
そこのことから、この先の未来も、人間のやることは結局変わらないのかもしれないと想像されて、漢字交じりのカタカナが、未来言語の様にさえ思えて来て、フェチズムという分からなさに通じる「分からない世界」として上手くマッチしています。
気になったところ
物語の本筋とは全く関係のないところですが、古い時代における常識への洗脳っぷりにギョッとした記述として、こんな文章が気になりました。
私ハPQ病院ノ福島ナル人ヲ知ラナイ。且ツ私ハ専門外デアルカソノ可否ニツイテ立チ入ッタ意見ヲ述ベル資格ハナイ、 シカシソノ人ガ東大出身ノ博士デアリ、PQ病院ニ勤務シテオラレル人物デアルナラ、先ズ信用シテ差支エナイ、決シテ出鱈目ヤインチキデハアルマイ、 モシ成功シナカッタ場合ニモ必ズ間違イガ起コラナイヨウニ萬全ノ策ヲ講ジラ上デ取リカカルニ違イナイ、 ダカラ同博士ヲ信頼シテヤッテオ貰イニナッタラドウカト。
今でもこういう思考停止で固定観念にとらわれまくっている人は多いけれども、これは本当に危険な思想です。
まして老人になって自分の病気とか体の不調のことについて、こんな判断の仕方をしてしまうのは怖いなと思いました。
隠れた名作
主人公のエロ爺っぷりとかフェチ的描写については気持ち悪さはありつつも、谷崎自身の趣味嗜好と近いことも相まって、本人も楽しんで書いているんだろうなと想像されて、なんだか憎めません。
テーマや内容はアレですが、文章も構成も文体も素晴らしいし面白い。決して教科書に取り上げられる事はない作品ですが、隠れた名作だと思いました。
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