「潮騒」三島由紀夫
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読みやすいと思ったら、途中で以前にも読んだことがある事を思い出しました。そういえば表紙のイラストにも馴染みがあったので、変な気持ちがスッキリとしました。
20代の頃に三島由紀夫作品に挑戦して、すべて合わなかったと勘違いをしていましたが、この「潮騒」は唯一読むことが出来、右翼とか自衛隊等の怖いイメージからは程遠い美しい物語に拍子抜けしたように記憶しています。
それにしても、自分の過去の記憶なんて曖昧なもので、読んだ本を覚えておくこともままならない事は少しショックでした。長く生きていると知ることは増えますが、忘れていく事も多いものです。
でも、何かのきっかけに思い出す事があったり、無自覚だけれど体の中に残っている感覚の破片の様なものがあるように思えて嬉しかったので、知ることは続けていきたいです。
綿密に考えられた構成で設定が上手い
「潮騒」は、ギリシャの小説「ダフニスとクロエ」の現代版と言われているとあとがきに書いてありました。
「ダフニスとクロエ」についてネット検索してみましたが詳細はよくわからなかったのだけれど、島・神社・船などが古代ギリシャを思わせるモチーフとなっていて、そこに日本的なエッセンスとして田舎の閉鎖的な風習や保守的な考え方や閉鎖的な地理状況などが神秘的なエッセンスを付け加えていて、神話とかおとぎ話的な雰囲気を感じました。
そして、物語の主軸は、日本人が好きそうな純愛とか弱そうに見えて不運な生い立ちの者が最後に逆転するとか、苦難を乗り越えてハッピーエンドを掴むというベタな流れとなっています。
何度も映画化されている作品ではありますが、完璧なまでにそこを狙って書かれているのではないでしょうか。
もしかすると、金色夜叉の熱海のように、歌島(三重県鳥羽市神島町)が有名な観光名所になることを想像していたのかもしれません。
というのも、モデルとなる島を知ってこの物語が思い浮かんだのではなく、先に物語の構想があってその雰囲気に合う場所を後から見つけたとのことで…やはり、ただの上手い作家ではなく、策士だなと思いました。
愛なんて自分勝手
主人公の新治と初枝は初めての恋の相手同士です。ですが、恋愛の心理描写において相手を思うような部分はあまり感じませんでした。
自分は将来どんなおとこになりたいとか、立派な大人としてどのような人間になりたいか?等、自分がどうありたいか?自分はどうすべきか?を主に考えているようです。
これはほとんどの登場人物が同様で、仲間や島の人やお世話になっている人たちの事を考えてはいるけれど、それぞれの考えは当たっていない。
片思いされている事に全く気付いていないとか、いずれ婿入りするだろうと思い込んでいるとか、自分はいけてると思っているとか。
また、そもそもお互い一目ぼれの様な初恋で、なぜ好きになったのかの決定的な出来事もないので、ただ顔が好みだったのかな?という感じ。気持ちの迷いもなく、感情面的にはスムーズにいきすぎにも見えます。
といっても、それを責めるつもりはなくて、だからこそ物語がリアルに響きます。
美しい初恋の純愛に見えても所詮人間は自分勝手、そして、それぞれ勝手に見当違いな事を考えて、無駄に悩んだり、トラブルになったりしているんですよね。
だからこその、最後の一文で、少しもやっとするけれど現実ってこうだよなと思いました。
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