「午後の曳航」三島由紀夫
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横浜山手が舞台の物語で、モデルとなっているのは今も営業を続けている「Poppy」という洋品店です。登場人物も船乗りで、海外小説の雰囲気を色濃く感じました。
例えば「Stand by me」の少年たちが成長していく成長物語の様に不安定な年頃の複雑怪奇な心理と港町の異国情緒が入り混じった日常と大人の普通とは少し違う恋愛模様とが上手くミックスされていてます。
この作品は、日米英合作の映画化がされていたり、オペラでも上演されている世界的な傑作で、映画の予告編の様な動画もみましたが、外国を舞台に西洋人が演じる世界観が自然で、三島由紀夫は海外にも通用する西洋っぽい作品を書きたかったのかなと思いました。 構成や設定などがよく考えられていて、西洋文化にはかなり精通していたと思われますし、三島由紀夫が話す英語の流暢さはすごくかっこよくて、カタカナ英語しか話せない日本人とは比べようがありません。 頭のよさだけでなく、物事を習得する上手さやセンスのよさを感じました。
少年と男の正義
主題は「少年目線の世界と正義」です。英雄的に登場した船乗り竜二が母と恋愛関係になっていく中で、彼の言動は、少年の眼から見ると「罪」に映ります。
ですが、竜二は現代の婚活市場で言うなれば優良物件てきな男性です。そして、自身も海へのロマンの様なものに人生をささげで婚期を逃していたり、不幸な生まれや境遇を背負っていたりとそれなりの闇も抱えています。
男とはそういう生き物なのでしょうか?自分の正義や自分の愛するものを絶対視しがちで、少年であっても青年であっても、きっと老年になっても正義にこだわり、罪深い行動をしてしまうのかもしれません。
女同士の関係
洋品店の女主人房子と顧客で映画女優の依子の関係性は、よくわかる!と共感しました。こういう人いるなぁと乾いた笑いがこみあげてくる感じですが、嫌いじゃないです。
駆け引きやマウンティングや心の中の探り合いみたいなことを、やってしまうものですよね。探偵に調査を依頼した展開はよかった。
女には女同士の正義や戦いがあるんですよね。
少年の眼から見た父親とは
これは間違った正義であり、まったくもって歪んだ解釈で、人間の一部分しか見えておらず、社会についてまだ知らない少年だからこその見え方であるのだけど、父親についてこんな風に書かれている事が印象的でした。
あれは本当に反吐の出るような存在だ。あれは害悪そのもので、人間の醜さをみんな背負っているんだ。
正しい父親なんてものはありえない。なぜって、父親という役割そのものが悪の形だからさ。 厳格な父親も、甘い父親も、その中くらいの程よい父親も、みんな同じくらい悪い。
父親はこの世界の蠅なんだ。あいつらはじっと狙っていて、僕たちの腐敗につけ込むんだ。 あいつらは僕たちの母親と交ったことを、世界中にふれ廻る汚らしい蠅だ。
船乗りという栄光を捨てて父親になるという事。
タイトルの「午後の曳航」とは、人生の後半のえいこうを指し示しているのかもしれません。
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