「行人」夏目漱石

作成 2013年9月30日 （2024年1月12日更新）

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行人ニアリーイコール異邦人。

心境としては絶望で、崩壊した帝国に立ち尽くすたった一人の自分は、激高を内に抱えてそれでも生きていくしかない。

もしくは、多彩・複雑・巨大で理解不能な絵画のある迷宮で、出口を探しているのかもしれない。

行人と異邦人

前半は物語の入り込めず、何が言いたいのかよくわからない気難しくて退屈な小説だと感じ、数か月間も放置してしまいました。

そこで、youtubeやネットで解説を読み、面白さの先取りをして何とか読み進めた。これらがなかったらきっと挫折していたでしょう。そして、自分の読解力のなさに愕然としました。

とは言え、コツを掴んだら、色々な伏線や言いたい事の洋服のすそがひらひらとちらつくみたいに揺らめいて、うまく言語化できない事の共感につながった気がします。

そして読了後は、しばらく世界観に浸っていたくて、宮本浩次の異邦人のカバーを聴いて号泣したりもしました。

というのも、youtubeでこのカバー曲と行人の世界観がぴったりだと言っている人がいて、激しく共感し、宮本浩次の表現力のすごさや曲の良さを改めて痛感したんです。

こんな風に、小説と音楽で似たようなテーマを扱っているものを探したり、ギターで弾き語りできるようになりたいなーとか、自分なりの解釈をもっと深くできるようになって、そういう事(自分)を通して、表現というか発信というか、アウトプットができたら素晴らしいとも思いました。

人生の楽しみ方が広がったようで、読書の価値も改めて感じたところです。

考えすぎる人

さて、私は神経質で考えすぎる一郎に共感する部分が多いのですが、 おおらかでムードメーカー的な二郎の言った次の言葉が現実でそれを受け止めるしかないというのが本質だとは思います。

他の心なんて、いくら学問をしたって、研究をしたって、解りっこないだろうと僕は思うんです。
～中略～
いくら親しい親子だって兄弟だって、心と心はただ通じているような気持がするだけで、実際向うとこっちとは身体が離れている通り心も離れているんだからしようがないじゃありませんか

自分の世界

この小説は、「友達」「兄」「帰ってから」「塵労(俗世間のわずらわしいかかわりあい又は煩悩)」の4部構成となっていて、漱石の言いたい事は、塵労の部分に凝縮されていると思うけれど、ここはすごく難解な部分でもあります。

なので、1回読んだくらいでは全然理解できないので、何回も読みたいところです。

その上で、今の時点で思う事は・・・
「神は自己で、僕は絶対。」というあたりをよく噛み砕きたいということです。

インド哲学とか仏教等と通じるところがあるし、「あの百合は僕の所有だ」等と、一郎がHさんとの旅行の中で色々のものについて所有という表現を使った事が、比ゆ的だと感じています。

自分に見えている世界は、すべて自分のもの。つまり、自分にとっての絶対である。

なので、人の事はどうやったって理解できないから、そんなことに思い悩むのではなく、 美しいと思うもの・よいと思うものを素直に感じて自分の世界を作ればいい。

結局、あるがままに受け止めるとか、無我とかにいきつくんじゃないかなと思いました。

他人とは絶対に理解しあえないと気づく事は、絶望的で地獄絵図なんだけど、自分という絶対が存在する世界は自然な美しさが満ち溢れるフラワーガーデンが思い浮かびます。

夏目漱石の才能

それにしても、夏目漱石ってすごい小説を書いています。

坊ちゃんとか吾輩は猫であるが有名だけれど、そういうエンタメ的な作品ではなく、精神的な悩みや葛藤が描かれている作品がとても素晴らしい。

私が知りたかったことも書かれているし、共感する部分も多いし、今この時期に読んだめぐりあわせや引き寄せにも必然性を感じて、読もうと思えて本当によかったです。

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