「夢十夜」夏目漱石

作成 2014年8月19日 （2024年8月19日更新）

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不思議な夢についての10編をまとめた短い短編集です。色々な作家の本を読みながら合間の休憩的にこの本を読んでみたのですが、やはり夏目漱石は文章が上手い。読みやすくてきれいな言葉選びをする人だと改めて感じました。

北里柴三郎の肖像画が描かれた新千円札の流通が始まって、夏目漱石がお札の人であった時代がかなり昔に感じられる今日この頃ではありますが、どれだけ時間が経っても魅了させてくれる人と急速に忘れ去られていく人がいて、変わらぬ価値がある人って本当に凄い！私はとくにそういった普遍的な事に魅力を感じます。

心に残った話は？

十個の話の中で心に残ったのは、1章、2章、3章、7章です。

読書家ブログなどを読むと、それぞれの話が何を象徴しているのか等について様々な人の意見が発信されているので、じっくり読むのも面白そうです。

愛について・芸術論・時代風刺などなど…。好みの問題はありますが、どの話も、かなり短いのに、様々に想像を膨らませることができ、味わい深さがあります。

最近の私は、暫く暑い日が続いていることもあり、活動量が落ちていましたが、文化を味わい教養を深める活動をまた増やしていきたい気持ちになりました。

第一夜

女の死に際とその後100年待ち続けた男の話。

真珠貝で穴を掘ったり、星の破片を拾ったり、茎が伸びて百合の花が開いたりする描写がロマンティックでとても美しい。

「百年はもう来ていたんだな」とこの時始めて気がついた。

夢中になって取り組んでいる時や大事な人の事を思っている時って、こんな風にあっという間に過ぎてしまいます。

今自分が向き合っているものが、自分にとってどういうものなのかどうかって、結局、後になってみないと分からないものなのかもしれません。

第二夜

和尚の前で、悟らなければならないと切羽詰まった侍の話。

瞑想している時の自分の頭の中の様子を思い出しました。

苦しい。無はなかなか出て来ない。出てくると思うとすぐ痛くなる。腹が立つ。無念になる。非常に口惜しくなる。涙がほろほろ出る。

リアリティを感じたけれど、文章として客観的に対峙したら、「無」なのに「有る物」としてとらえている矛盾が気になりました。

改めて…無って何なのでしょうか？いつか無我の境地にたどり着けたら…。

第三夜

盲目の自分の子供を背負わされて歩きながら、心の中で思う事を描いた、ホラーな御伽噺の様なお話。

ただ背中に小さい小僧がくっついていて、その小僧が自分の過去、現在、未来をことごとく照らして、寸分の事実も洩らさない鏡のように光っている。 しかもそれが自分の子である。そうして盲目である。自分はたまらなくなった。

誰もが皆、こういう小僧の様なものを背負って生きているのかもしれません。

自分の行ってきた過去からは常に見張られている様で、もちろん、その痛くて重たい視線から逃れることは決してできない。

今何をするのか？どう生きるのかの選択は、こういうことを背負って今後生きていくという覚悟を以てすべきなのでしょう。

第七夜

大きな船に乗っている主人公と周りの乗客たちの様子についてのお話。

船に乗ることはよく人生に例えられます。大型客船でどのように過ごすかは様々な生き方の例えとして描かれるのもよくある手法で、映画「タイタニック」を思い出しました。

自分はどこへ行くんだか分からない船でも、やっぱり乗っている方がよかったと始めて悟りながら、しかもその悟りを利用することができずに、無限の後悔と恐怖とを抱いて暗い波の方へ静かに落ちて行った。

「将来どうなるかわからない」という感情は度々溢れ出し、恐怖心をあおってきますが、逃げようとしてもその先は暗い波であって、結局怖い。

逃げても意味ないし、行き先が分からないのは当たり前。今までもずっとそうやって前に進んできているし、周りはそれでも楽しそうにやっていて、自分の状況だってそんなに悪くないんじゃないかと…こんなに短い話なのに、急にそう思えました。

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