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「門」夏目漱石

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地味な生活とはこういう事なのだろうか?
とにかく派手さがないし、浮ついているところもない。
大声で笑ったり、嬉しくてたまらなくて…みたいな瞬間が一切なくて、ただ淡々と生活が過ぎていく。

まぁ、不幸という感じはしないけれど、幸せでもないのかな?

読んでいて、「あまり面白くない生活」「こんな人生で楽しいのだろうか?」とか思ってしまいましたが、ミニマリスト思考の私の日々の生活も他人から見たらこんなもんかもしれません。

といっても、私自身としては心の中で大笑いしたり、にやけが止まらない瞬間なんかもあったりするので、まあいいじゃないかと、自己容認はできています。

ということで、こんな調子で物語の展開も起伏が少なく、全体の7割ぐらいまでは、退屈な日々の様子が書かれていたのだけれど、ちょっとほっこりする場面はいくつかありました。例えば…

晩食の後御米といっしょにまた縁側へ出て、暗い所で白地の浴衣を並べて、涼みながら、画の話をした。

こんな夜の過ごし方っていいなぁ~。
テレビも、お酒やおしゃれなおつまみも要らないけど、自然の中で、ただ気心の分かり合える人とゆっくりと好きな話をできる時間。
私の理想としては、こういう時間こそが大切で、素敵な時間だと感じました。

現代は、「忙しくて、夕食後に夫婦でまったりする時間なんてない!」という人がほとんどかもしれませんが、忙しいって事は、不幸で愚かな事なのかもしれません。



全然話は変わりますが、過去の手放し方としてなんかいいなと思ったのは次のところです。

宗助は苦笑してやめた。
「つまりおれがあの時東京へ出られなかったからの事さ」
「そうして東京へ出られた時は、もうそんな事はどうでもよかったんですもの」
夫婦はこんな話をしながら、また細い空を庇の下から覗いて見て、明日の天気を語り合って蚊帳に這入った。

色々とあきらめている人らしさがもろに出ているけれど、過ぎてしまった過去の出来事を潔く手放すための考え方としてはこれが正解ですよね。



それから、宗助と御米夫婦の地味な生活は節約も徹底していて、節約系ミニマリストみたいだと感じたのはこんな場面です。

宗助の頭の中には、この間から物質上の欲求が、絶えず動いていた。ただ地味な生活をしなれた結果として、足らぬ家計をたると諦める癖がついているので、毎月きまって這入るもののほかには、臨時に不意の工面をしてまで、少しでも常以上に寛いでみようと云う働きは出なかった。

物欲はないわけではないけど、思いが行動を促すまでには至らない感じがまさにミニマリストっぽくて、激しく共感しました。

さらに、この後で不要なものを売る売り方もうまい具合にやっていて、倹約家のリアル感がでていました。



さて、この物語の中で、私が好きな部分は後半の寺院で座禅などの修行をする場面です。
特に好きなのは瞑想をしている時のこんな表現。

宗助はまた考え始めた。すると、すぐ色のあるもの、形のあつものが頭の中をと織り出した。ぞろぞろと群がる蟻のごとくに動いて行く、あとからまたぞろぞろと群がる蟻のごとくに現れた。じっとしているのはただ宗助の身体だけであった。心は切ないほど、苦しいほど、耐えがたいほど動いた。

瞑想を言葉で表現している芸術作品といえば、ビートルズのジョンレノンが書いた名曲「across the universe」があって、そちらは、「言葉が雨の様に紙コップの中に降り注いで、宇宙の彼方へ消えていく」といった具合で、こちらもすごく素敵ですが、夏目漱石の表現もさすがです。

不可思議な瞑想の気味の悪さと、瞑想をしたくなる時の何かを探している様な心のつらさが感じられました。

最近、自分でも瞑想をしているので、状況を想像しやすく、興味深く読めました。



そして最後に、この物語の中で一番心に残ったメッセージは以下です。

自分は門を開けて貰いに来た。けれども門番は扉の向側にいて、敲いてもついに顔さえ出してくれなかった。ただ、「敲いても駄目だ。独りで開けて入れ」と云う声が聞こえただけであった。

自分の人生の答えを探したり、問題解決をするために、自ら考えて行動して、いいところまできているんだけど、肝心なところで人に頼ってしまって、行動したことで満足してしまう事ってあります。

本気で自己改革しようとしてなくて、自分は駄目な人間のままだとあきらめている感じです。

でも、ただ扉を開けるだけ。その扉には鍵もかかっていない。「難しい事ではない。開ければいいのに。」と、第三者的には思ってしまいました。

でも、扉を開けられないのは、勇気がないからじゃなくて、その気がないからではないでしょうか。

最初から本気で変化を恐れずに扉を突破する気持ちをもって行動することをしていかなくちゃいけないんだな…私にはできるだろうか?と…そんな風に、なまぬるい覚悟で行動しているつもりになっている自分に問いかけられている気がしました。

今は分からなくて、どちらかというとちょっと自信がないけれど、「独りで開けて入れ」という声が聞こえたならば、素直にすんなりと自分で扉を開けて、もんをくぐってその先へ進む人になりたいです。

今は、門の前にすらたどり着いていないけれど、何かを目指してそういう場所にたどり着いたら、門を開けられるように、心の準備だけはしておいた方がよさそうです。

決心をしつつ、前に進もう。


「門」夏目漱石




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