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「告白」三島由紀夫 / 三島由紀夫未公開インタビュー・太陽と鉄/精神(思考)と肉体(筋肉)

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三島由紀夫の最後の4部作小説の3つ目「暁の寺」の脱稿日のインタビューと自伝的エッセイの「太陽と鉄」がおさめられている本。「太陽と鉄」を読みたくて手に取ってみました。

「太陽と鉄」の構成について

エッセイといいつつも三島由紀夫らしく、抽象的で難しい深い考えを比喩や様々なテクニックで装飾しまくって論理的に組み立ててある感じなので、気持ちよく読み進められるけれども何を言っているのかよくわからない難解な作品でした。

というのも、見出しが一切ないひと固まりの文章になっており、「こういう表現方法でしかこの気持ちをあらわせない」的なことを言っているけれど、わざと多くの人には理解されないように難しく書いているような気がしました。自伝的に自分のことを書いていると言いながらも告白にはなっていない?まだ仮面を脱いでいないよね?という感じです。

それで、タイトルの「太陽」とは、自分の思考的な部分について。「鉄」とは鉄アレイとかかな?筋トレのイメージで体を鍛える事の象徴としてモチーフにされています。

そしてこの二つの対比は、「精神(思考)と肉体」「文武両道」「生と死」「戦争と戦後」といった概念とも絡めて、様々なエピソードとともにに語られていきます。

最後は「エピロオグーF104」として、超音速ジェット戦闘機F104に搭乗して味わった臨死体験の様な話と<イカロス>という詩で締めくくられています。 (イカロスとはギリシャ神話に出てくる青年の名前で、蝋の翼で島から脱出しようと飛び立ったが太陽の熱で翼が溶けて落ちて死んだ事から、傲慢さの戒めと勇気の象徴として取り上げられる事があります。)

何が書かれているのか?

「三島作品の中でも難解な部類」と言っている人もいる作品で、解説動画やサイトもみましたが…よくわかりません。でも、本を読んで「すべて分かった」なんて思えるはずはないし、作者だって分からないけれど感覚的に書いている部分もあるだろうし、そういうものかなと、ふわっと感じて言葉にできないけれど心に残っている感覚を得られたことを喜び、形のないものだけどそれを大事に持っておきたい様な気持ちでいます。

ということで、理解できないなりに私なりに、書かれていたことをまとめてみようと思います。

とても大事な事が書いてありそうなので理解したい!けれど、戦争を経験した人とか価値観の相違が大きいだろうしなんて諦めを感じつつ、だいぶ時代が変わっているので、今を生きる現代人にとっては当たり前の些細なことかもしれないと思ったりもして、書かれている事を一言でまとめるのは難しいですが・・・
「色んな文章(心)を書いてきたけど、身体は心をあらわすから鍛えてるんだよ。肉体と行動の美学!」
大雑把に言うとこういう感じで、その究極的なところに「死」があるという事の様です。

大事そうな部分を箇条書きするとこんな感じです。

  • 私とは、自我という家屋をとりまく果樹園のような肉体で、私はそれをせっせと耕してきた
  • あるべき肉体・あるべき現実は、言葉の腐食作用から免れているので探求したい
  • 太陽は死のイメージで少年時代には敵視していたが、のちにそれから肉体上の恵みをうけるようになった
  • 柔弱な情緒には柔弱な筋肉が照応する。病み衰えた体育理論家を顧るものはいない
  • 自分は肉体より先に言葉が来た人間なので、教養形成の一つとして筋肉が必要だった
  • 筋肉と鉄は相対的な存在感覚。私は鉄塊持ち上げている時に自分の力を信じることが出来、それは徐々に思想の核となった
  • 自意識から解き放たれて自分が存在している事を感じた経験より、存在の手続きは複雑だ!と理解した
  • 厳密にいうと、「見ること(自意識)」と「存在すること(存在)」は背反する。芯が外から丸見えになった透明な林檎の例え

全体的な流れが難しいので、後から見直してかいつまんで、目に留まったところのみピックアップしてみました。うーん難しい。

心に残った部分について

心に残った部分をいかにピックアップしてみました。

私の自我を家屋とすると、私の肉体はこれをとりまく果樹園の様なものであった。私はその果樹園をみごとに耕すこともできたし、又や層の生い茂るままに放置することもできた。
~中略~
あるとき思いついて、私はその果樹園をせっせと耕しはじめた。使われたのは太陽と鉄とであった。
~中略~
そうして果樹園が徐々に実を結ぶにつれ、肉体というものが私の思考の大きな部分を占めるにいたった。

自我(心・精神)と肉体は単純な二元論ではなく、相反する事もあり、並列する事もあり、二つともになくてはならないものでもある。太陽が三島由紀夫の自我の形成においてどのような象徴であるのかはちょっとわかりにくいけど、他の作品などでもよく使われている神輿を担ぐ男たちが太陽に照らされているイメージとして思い出されました。

言葉に携わる者は、悲劇を制作することはできるが、参加することはできない。しかもその特権的な崇高さは、厳密に一種の肉体的勇気に基づいている必要があった。
~中略~
人があるとき神的なものであるためには、ふだんな決して神あるいは神に近いものであってはならなかった。

自分は特別な存在だと思いすぎている節があるような気がしますが、作品が世に出て世界で翻訳されて・・・という影響力を客観的にみて、昔で言うところの崇高な神という存在と重ねていたのかもしれません。

思想の形成は、ひとつのはっきりしない主題のさまざまな言い換えの試みによってはじまる。 釣師がさまざまな釣竿を試し、剣道家がさまざまな竹刀を振ってみて自分に適した寸法と重みを発見するように、 思想が形成されようとするときには、或るまだ定かではない観念をいろいろな形に言い換えてみて、ついに自分に適した寸法と重みを発見した時に、 思想は身につき、彼の所有物になるであろう。

自分で考える力を持ち、自分なりの考え(思想)を持てるようになりたいと思っていますが、やり方の分かり易いヒントだったのでメモ。

肉体をそのままにして、魂が無限に真実に近づこうと逸脱する不健全な傾向を、想像力という言葉が、いかに美化してきたことであろうか。 他人の肉体の痛みをわが痛みの如く感ずるという、想像力の感傷的側面のおかげで、人はいかに自分の肉体の痛みを避けてきたことであろうか。 又、精神的な苦悩などという、価値の高低のはなはだ測りにくいものを、想像力がいかに等し並に崇高化してきたことであろうか。 そして、このような想像力の越権が、芸術家の表現行為と共犯関係を結ぶときに、そこに作品という一つの「物」の擬制が存在せしめられ、 こうした多数の「物」の介在が、今度は逆に現実を歪め修正してきたのである。その結果は、人々はただ影にしか接触しないようになり、 自分の肉体の痛みと敢えて親しまないようになるであろう。

スマホやネットばかり見てバーチャルな世界にどっぷりとつかっている現代人への警告かな?筋トレ大事!現実世界での経験は大事だから行動すべし!

「文武両道」的人間は、死の瞬間、正にその「文武両道」のむ救済の理想が実現されようとする瞬間に、その理想をどちらの側からか裏切るであろう。

「文」は不朽の花(造花)を育てる事。「武」は花と散る事。相反するもので、叶ったとしても一瞬にして終わる。

私は自分の存在の条件を一切認めず、別の存在の手続きを自分に課したのだった、 そもそも、私の存在を保証している言葉というものが、私の存在の条件を規制している以上、「別の存在の手続き」とは、 言葉の喚起し放射する影像の側へ進んで身を投げ出す事であり、言葉によって創る者から、 言葉によって創られる者へ移行することであり、巧妙細緻な手続きによって、 一瞬の存在の影像を確保することに他ならなかった。
~中略~
しかしもはやそれを保証するものは言葉ではない。 言葉による存在の保証を拒絶したところに生まれたそのような存在は、別のもので保障されなければならぬ。 それこそは筋肉だったのである。

理解が難しいけれど、筋肉を重要視する説明のまとめ的な事を言っているのだと思う。書き続けてきたことを真の意味で実現して美を貫くには書くだけでは駄目で筋肉だという事かな。



難しい事を言っているけど、何か惹きつけられるものがあるところが不思議です。でも、こんな複雑な考えが常に頭の中にあったら相当疲れるだろうに…さぞかし生きづらかったことでしょう。


告白 三島由紀夫未公開インタビュー (講談社文庫)



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