「命売ります」三島由紀夫
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三島由紀夫といえば、割腹自殺・右翼・盾の会・筋肉ボディビル等、そして、短髪にハチマキをして軍服とか学ランっぽいイメージで、苦手意識がありました。なんか怖い感じ。
彼の作品「金閣寺」を流し読みした程度で食わず嫌いだったのですが、印象が大きく変わりました。
面白い!文章が美しい
この本を読んで、世の中には自分の知らないよきものがまだまだたくさんありそうだと楽しみになりました。
悪い印象のものこそ一気に大好きになる可能性を秘めていたりするものですが、まさにそんな感じでして、物語として面白いし、文章は美しくて読み易いし、行動や考え方や言葉選びなどもオシャレで、今まで私の想像の中に合った三島由紀夫とは何だったのかとその印象が大きく変わりました。
また、ノーベル文学賞候補になっただけあり、世の中で一定の評価を得ている人や作品はそれなりの価値や理由があるものだと思いました。
食わず嫌いはやめて、とりあえず有名どころは抑えておきたいところです。
詩的な表現
三島由紀夫の文章は美しいと言われますが、この本の様なエンタメ小説の中にもたくさん素敵な表現があって、それらのフレーズ単体だけでも楽しめました。例えばこんな感じです。
近くの坂道の曲がり角で鳴らす自動車のクラクションが、暗いトロリとした海のような春の夜から、飛び上がる飛魚の鰭のひらめきのように鋭くひびき、 決して眠らぬ夜は彼方に轟いていた。
つまらない、つまらない、つまらない、なんか面白いことないか、と一千万人が顔を合わせば挨拶がわりに言っている大都会の厖大な欲求不満(フラストレーション)。
そこにうごめく無数のプランクトンのような夜の若者たち。
ちょっとバブル期を思い起こさせるような気取った表現ではありますが、嫌いじゃないです。
命を売りたかった男が・・・
「命売ります」という広告を出して、癖のある様々な買い手達と出会う物語。
その中で、最初は売ってしまって構わない命だったのに、命を売りたくないと心変わりした展開が好きな感じでした。
「そんな男じゃない」自分が、一体「どんな男」なのか、よくわからない。
~中略~
今、彼は、「どうでも死にたくない」という意味の啖呵を切ったのである。
気持ちや考え方って、様々な経験を経ることによって気づいたら変わっていたりするんですよね。
先見の明
天才的な才能を表す人には先見の明があるように思うが、今の時代を想像していたのか?と思う様だったのは、後半のこんな部分
彼は、精巧な微細なトランシーバアを腿へ射込まれていたのだった。
これを読んで思い浮かんだのはICチップです。かなり小型化されたICチップを人体に埋め込む人も現れている現代。
そんな未来を予兆していたのかと、作家の想像力に驚かされます。
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