「女性に関する十二章」伊藤整
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昭和28年に雑誌「婦人公論」にて連載されていたエッセイをまとめたもので、映画化もされた人気作品です。
今でも当てはまるところがあるだけでなく、現代人よりも深く心理を理解している感じがして、これこそ本質だろうと思ったりしました。
時の流れによって環境は激変したように見えるけれども、人間のやっている事はしょせん反射行動で、たいしてバージョンアップもしていないのかもしれません。
目次
女性の形と女性の人生のパターン
イワユル男の浮気というものの全責任は、女性の化粧や着つけの類型性にある
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金をかけて着飾った女性は氏に、彼女の強欲な父親のサクシュ振りを連想させ、 美しい芸者は氏に、彼女の自由のない身分の哀れさを思い浮かべさせ、 無邪気な少女を見た時ですら氏は、その少女が結婚をして暫くは夫にいじめられる気の毒さを、 次にはやがて彼女が年を経て己の実力に気づいた時に、その夫の方が彼女にいじめられる哀れさを想像するので、彼女を安らかに祝福することができません。
(第二章 女性の姿形)
女性は群れたがるし、真似したがる。そして、男性は典型的な同じような女性のパターンを好きになりがち。なんか、どっちも意味のない事をしてるなー。
そして、女性の一生というものも、いくつかの哀れなパターンに、たいていがあてはまる。人生ってなんだかな…
男の浮気は仕方ない
もしある男性が、結婚していて、妻にしか性の衝動を感じない、と真心から告白したとすれば、私は、その男を偽善者だと言います。
(第三章 哀れなる男性)
キチガイに近いとか去勢者でもなければ、男は必ず浮気をするらしい。なんども聞くので分かっているつもりですが、女の私としては心の底からは理解できておらず、聞くたびに、「やっぱりそうなんだろうな」と理解が深まる気がします。
かつては男性の不倫はOKだったという不平等なルールの存在が思い浮かび、嫌悪感や複雑な感情の湧きあがりを感じる、性差です。
愛とは?結婚生活は難しい
愛は結婚後三日目、三ヶ月目または三年目で消滅するのが普通です。私の推定では、一般に人々が、それを口実にして結婚生活に入るところのものは、愛でなくて情緒であるようです。 我々俗人の男女は、本当は愛など感じもせず、理解もせず、願いもしないように思います。 ・・・
たとえば、何人もの子供を持っている母親が、その子供の一人一人の性質を考えて、それをはぐくみ、兄弟の中で調和させ、世の中にうまく合わせて送り出してやる。 そういう時の大きな弾力のある、その人の立場になって考えてやる心の働きが愛です。
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結婚生活の実相を理解していても、解決は決して簡単でありません。社会に縛られることは、古い考え方や古い習慣を正しいと思って生きている人たちに縛られることになるのです。
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夫は決して私を憎んでいるのではない。親戚付合やお祭りの寄付や会社の上役だちがいけないからウチノヒトは不機嫌なのだ、と考えると、妻たちは心の安定を得るでしょう。 女房がオレを縛るのではない。女房の旧式のオフクロや金を出してくれない女房の親父や、隣近所のカナボウヒキの女たちが、 女房の考え方に影響を与えるものだから、女房がオレを縛るような気がするだけだ
(第四章 妻は世間の代表者)
愛とは?の例えが分かりやすい。相手の立場に立って、相手の幸せを考えられる事が愛で、会いたいとか大事にしてもらいたいとか、自分が嬉しい気持ちになりたい系の事は、本来は愛ではないんですよね。
つまり、結婚なんてしなくても愛することはいくらでもできるのです。
いずれにしてもいい具合にするのが難しい
真の夫婦の危機とは、人間的に目ざめた妻が自分自身をごまかしきれなくなった時であろう。
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夫に人間的な誠実さがないかぎり、妻の心をごまかすことはできないだろうし、
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完全な人間もなく、完全な生活もありません。退くのは必要限度の五十歩くらいにしておいた方が、戻る時には便利です。
(第五章 五十歩と百歩)
どんな男も五十歩百歩かもしれないけれど、五十歩と五十一歩の差で成功できなかったりもする。
エゴイスト同士が結びつくには?
人間は、自分のことばかり考え、自分のエゴだけを通そうという残酷なもので、一人一人が、他人や隣人や妻を敵とし、これを征服し、自分に従属させようとするエゴイストばかりである、 という恐ろしい孤独感から、何とかして抜け出したい。どこかに他人を愛し、他人と結びつく本当の根拠を見つけ出したい、
(第六章 愛とは何か)
恋人・夫婦・友達・同士など、人間と人間が結びついて世代を引き継ぎ、自分自身も色んな人と結びついているけれど、その本当の意味を誰も分かっていない。
夏目漱石が作った「則天去私」という言葉(私利私欲を捨てて自然の流れに身をまかせてより高い境地に達するという意味)が例に挙げられていました。
いい感じの人と結びつきたいと思うのは人間のエゴで、人間はエゴだらけ。結びつきたい思いは皆もっているのに、どうすればうまくいくのでしょうか?とりあえず、エゴ丸出しでエゴが強すぎるのはよくないですね。
正しい美しくない女
正しい事ばかり考え、正しい事ばかりを言うところの美しくない女性は、 正しくないことを考え、正しくないことを言うところの美しい女性よりも「女性」として幸福に生きられる、 とはだれも思わないでしょう。
(第七章 正義と愛情)
美しいことはよいことだと思います。正しいことも私は好きです。
でも、美=正義ではなく、正義=美とも限らない。
美しくありたいし、自分が正しいと思う言動をしたいけれど、それで幸せになれるとは限らないのだから、生きるって難しい。
参考にしたい良い例え
良い楽器ほど鳴りやすいものである。
人間性豊かな人ほど、喜んだり、悲しんだり、ネタんだり、後悔したりする度合いが強烈なものである ・・・
私ハ、私ダケノ嫉妬ヲ悩ンデイルノデハナイ。全女性ノ嫉妬ヲ代表シテ悩ンデイルノデアル。 ウチノ人ハ、私ヲ嫌ッテ浮気スルワケデハナイ。 彼ハ男性一般ノ苦悩ノ犠牲者ニスギナイ。
(第八章 苦悩について)
成熟した人間は喜怒哀楽を表に出さないイメージがあるけれど、それだと良い楽器に例えられるような人間的な魅力は少ないかもしれません。
それから、悩みを感じた時に、自分固有の悩みとしてとらえるのではなく、大きな括りの陥りがちなパターンとしての悩みにしてしまうと心が軽くなりそうです。
我儘を大事にして調和させる
秩序は我儘のために、ゆすぶられて動揺します。 それでいいのです。 秩序は我儘を打倒に生かすための臨時の制度であって、秩序が大切なのではなく、我儘が大切なのです。
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戦争中まで受けて来た道徳教育なるものは、専ら我儘を消して、自分の生命を、国家や王や家族のために犠牲にしなければならない、ということでした。
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二個の人間の我儘がぶつかったとき、片方が我儘を極端に発揮すれば、他方は犠牲となって、我儘をまったく消さねばならなくなるでしょう。 それを、両方とも生かして、適当に調和させることが、社会生活というものです。
(第九章 情緒について)
分かりやすい。思考停止して秩序が大事と思い込んでただルールに従っているのでは意味がない。いい世の中にならない。
自分の我儘というか、本当にやりたい事・やるべき事が分からなくなっているのがよくないのでしょう。自分の我儘もわからないし、他人とそれをどううまく調和させるかなんてわかってるはずもなくただ自分の我儘を押し通そうとして来る。
自分の我儘が通らないから、相手のことを嫌いだとか合わないとか思い、一人だいる方がいいと引きこもる。これじゃあ結婚生活とか社会的な生活はできない。
他人の我儘を面白がって、どう調和させるかを楽しめるといいなぁ
欲望が足りないかも
人間は、思うようにならない事にぶつかって初めて生き甲斐を感ずるものである
人間は、苦悩を愛するものである
苦労なしに得たものは存在しないと同様である
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(第十章 生命の意識)
空気とか血とか水道水は当たり前に簡単に手に入るのでありがたみを感じにくい一方で、苦労して手に入れたものは価値を感じやすいけれど、まぁしばらくすると、慣れてしまうというのも事実。
でも、何の障害もなく簡単に上手くいきすぎる人生は、生き甲斐を感じにくそうなのはその通りだろ思います。
とはいえ、不幸なことがあった時、もっと不幸な人はいると物分かりがいい人になってしまうと、引っ込み思案な人生になってしまいます。
そんな時は、その経験を世の中を生かすことに何か使えないかと考えて行動してみると良さそうです。
それから、最近の私は、おとなしく収まりすぎていて欲望が足りないかもしれないと感じました。年齢だとか変に悟った気になっていても、自分の欲望が分からなくなっているだけかもしれません。それだと生きている気力がどんどんなくなってしまいそうでよくないですね。
本能と欲望と執着が大事
よい事は理屈を貫くことでなく、 オテイサイにこだわることでなく、 まして他人に教えられた道徳などを後生大事に守ることでもありません。 自分の本能と欲望と執着とを生かし、他人のそれもできるだけ生かすことです。 本能の方が永遠のもので、政治形式や文化的流行次第でどうにでも変わる道徳という間にあわせの約束よりもはるかに大切です。
(第十一章 家庭とは何か)
自分は何をしたいのか?って、分かっている様で分かっていない。時間ができても何をしたらよいかわからない。暇があればとりあえずお金稼ぎをしておけば安心なんてダサイ生き方だなぁ。私は今本能とか欲望とやらに向き合う必要がありそうです。
秩序とは
秩序とは元来は、人間はこの世の中に群れて住む時に、なるべくマサツが起きないように、人々が調和して生き易いようにと考えて長い間かかって作った約束なのです。 しかも、たいていの場合、権力や金力をもっている側が、自分の都合のよいように、人民に自由なことをされて社会組織が崩れないようにと考えてた、その意思に従って出来たものです。 宗教から始まった秩序にしても、次第に国王とか主権者とか上層階級に都合のよいものに姿を変えて行きます。 (第十二章 この世は生きるに値するか)
秩序なんて滑稽ですね。
愛の実体と幸福な生活について
愛の実態を追求しすぎることは、ラッキュウの皮をぬくようなもので、ムキすぎると無くなってしまいます。 愛というものは、それを分析したりヒンムいたりしないで、栄養を与え、暖かい土の中に埋め、水分と日光とをやって育てるべきものであります。 そうすると、初めは何の実体もないと思っていたものが、芽を吹き出し、花を咲かせ、実を結ぶでしょう。
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私は愛した、私は愛されようと思って努力をし、しかも自分をも生かすように工夫もした、と満足して反省できるように生きよう、と思いながら、一日一日を送ることができれば、その人の生活は幸福だというのに値しましょう。
(結びの言葉)
実体のない愛の育み方の説明が秀逸です。こんな風に主体的に愛を以て日々を過ごせると幸せな人生が送れそうです。
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