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「陰影礼賛」谷崎潤一郎

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真っ暗な店内でちょっと変わったコーヒーゼリーをいただけるカフェがあるとのことで、足を伸ばして行ってみたことがあります。

黒くて重々しい扉を開けるのには少し勇気が必要だったけど、薄暗い空間は思っていた感じと違ってとても落ち着き、美味しさとともに丁寧で温かいおもてなしを頂けて、よい体験ができました。

それで、とあるインタビュー動画で、そこのオーナーがお店を作った理由として、「谷崎潤一郎の陰影礼賛の影響がある」と、語っているのをみまして、気になって読んでみた次第です。

古日本の厠の美しさ

この本「陰影礼賛」で書かれているところの美しい厠の条件は…

或る程度の薄暗さと、徹底的に清潔であることと、蚊の呻りさえ耳につくような静かさとが、必須の条件なのである。

分かる!高級な老舗料理店のお手洗いとか。

あと、子供の頃ちょっと嫌だったけど、きれいに掃除されているなと感じてたおばあちゃんの家の古い和式トイレを思い出しました。

ああいうのこそが、今は失われてしまった昔の日本家屋の古き良き美しさだったのでしょう。

それから、トイレが母屋から離れたところにある不便さについて…オシャレは快適さを我慢する事だなんていうけれど、建築的な美も同じ様です。

「風流は寒きものなり」という斎藤緑雨の事の如く

また、西洋のものをなんでのそのまま取り入れる事への提言がなされていて、たとえば音楽について、蓄音機なんかは音を大きくさせればいいと思っているけど、「日本的な音楽の良さはもっと控えめなところにあるし、日本人は声が小さいし、言葉数も少ないし、間が大事だ」と書かれていました。

私は自分がHSPだから大きな音が苦手だと思っていたけれど、日本人的な美意識に忠実なだけなのかもしれません。

もちろん、西洋か?日本か?の2択ではないし、どんなに好きなものでもすべての要素が大好きという訳ではないです。

ですが、生まれながらにして持っている根本的な美意識の概念が、西洋音楽のそれと違和感があるという点については、なんとなく分かっているけど触れられたくない事実として蓋をしていたのにこじ開けられてしまった気分がしました。

とはいえ、私にとっては運命を感じるくらい古い洋楽は特別に大好きなものであって、日本音楽にはそういう特別感は感じないのだから、好みや美の基準って複雑です。

そして、世界基準で見た時に、音や音楽についてのもっと日本らしい最上の美は、まだまだ発展途上なのかもしれません。

美しさとは?東洋の美とは?

世界の中で負けない東洋を競う事はないけれど、東洋人であるならば、それを活かした東洋のよさや美しさは大事にしていきたいと思っています。

西洋人の云う「東洋の神秘」とは、かくの如き暗がりが持つ不気味な静かさを指すのであろう。

暗いとか、静かとか、声が小さくてあまりしゃべらないとか…
今の日本人の間でもあまりよしとはされない価値観だけれども、私は意外と好きだし、自分自身の特性はこっち寄りだとも思っています。

なので、陰影礼賛とはつまり「暗いのものも悪くないよね」ってことで、自分を認めてもらっているような嬉しさがあります。

暗がりで感じる美しさ

美は物体にあるのではなく、物体と物体との作り出す陰影のあや、明暗にあると考える。
夜光の珠も暗中に置けば光彩を放つが、白日の下に曝せば宝石の魅力を失う如く、陰影の作用を離れて美はないと思う。

ちょっと褒めすぎている気もするけれど、暗がりの中にあるものを美しく思う気持ちにはすごく共感します。

全部を知らない方が美を感じるとか、全部見えなくて不完全だからこそ美しいとか、人気のyoutuberも顔出ししないであご先だけがちらっと見えるから美人ぽく見えるとかね。

外国人がそういう演出をしているのを見たことはなくて、みんながっつり顔出しして満面の笑顔でドアップでアピールしてくる。

もうこういうのは、民族的に刷り込まれている価値観なのでしょう。

西洋にあこがれはあるけれど、無理したり、そのままを取り入れたりはやめて、自分の美しさの基準もプラスして自分に合うものに仕立て直す気持ちを忘れないようにした方がよいかもしれません。

日本人の肌は汚いのか?

私の肌はくすんでいます。
年齢のせいもあるけど、元々黄色みが強くて子供の頃から、自分の肌は均一で真っ白だと思った事はなくて、リカちゃん人形などのつるつるの肌には違和感を感じていました。

でも、だからといってくすんだ肌を汚いと思っていたわけでもないのだけれど、この本の中では結構散々な言われようをしています。

日本人のはどんなに白くとも、白い中に微かな翳りがある。
そのくせそう云う女たちは西洋人に負けないように、背中から二の腕から腋の下まで、露出している肉体のあらゆる部分へ濃い白粉を塗っているのだが、それでいて、やっぱりその皮膚の底に澱んでいる暗色を消すことが出来ない。

現代の化粧品の技術はすごくて、コンシーラーを使うと、シミやくすみは本当になかったかのように消せて、均一な肌色を作れます。

でも私は化粧が下手なので、化粧崩れとかはするし、べた塗りすればいいってもんでもないので、ナチュラルメイクを目指してなるべく薄化粧にしたりすると、やっぱりくすんでいる気がするんです。

それは、日本人にとっては仕方がない事なのかもしれません。
そして、100年も昔の男性に哀れな西洋女性へのかなわぬ憧れを見抜かれているとは、恥ずかしい気持ちになりました(笑)

そんなくすんだ肌も美しいと大絶賛はしてくれていないところが寂しいけれど、ありのままでいいのかなと…。(きっちりと、ゴリゴリのスキンケアをするのが面倒くさいので、シンプルケアを肯定したい。)

人間の外見的・文学芸術や音楽等、美しさは探求され続けていて、美しさの基準はそれぞれだし、一番美しいものは決められません。

ただ、自分にとっての美がはっきりしていればそれでいいと思います。

でも、今の日本人の感じる美しさはぶれまくりすぎていないでしょうか? 周りに流されて、そもそも、自分にとってどういうものが美しいのかさえ分かっていない人が多い様に感じます。

陰影を美しく思う気持ちには確かに共感する部分があって、民族的に自分に合っているので、ひいき目で見てしまうところもあるかもしれないけれど、その美の基準は大事にしつつ、今を生きる日本人の自分として、個人的な美の基準をアップデートし、「私の美の基準」を明確にしたいです。



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